予測的姿勢調節とは?脳卒中のバランス障害で重要なポイントを解説します!

予測的姿勢調節

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脳卒中片麻痺のバランス障害では動作前・中・後の問題を分けて評価する必要性があります。

その中で今回は、動作前に関与する予測的姿勢調節(Anticipately Postural Ajustments:APAs)について解説したいと思います。

 

予測的姿勢調節(APAs)とは?

別名APAsと呼ばれ、最近ではAPAsの方が聞きなれているかもしれません。

また日本語でも先行随伴性姿勢調節、調整、予測的姿勢制御機構など様々な呼び名がありますが、同義語と捉えてください。

フィードフォワードとフィードバックという言葉で分類するとフィードフォワード制御の姿勢調節機構となります。フィードフォワード・フィードバック制御はもう少し広い概念を含んだ言葉になります。

予測的姿勢調節はフィードフォワード制御の一部であると認識していただけると良いと思います。

 

主運動によって生じるであろう重心動揺を事前に最小限に抑えるために姿勢を調節しており、これが予測的姿勢調節と呼ばれる。予測的姿勢調節は、生得的な反射によるのではなく、意図した運動を開始する前に上位中枢機構(Central Nervous System:CNS)からの指令により発現していると考えられている                                Massion 1992

とされています。

例を挙げると

立って手を挙げようとした場合に、手を上げる前に姿勢が崩れないように準備しておかないと人形のように手を前に出すと倒れてしまいます。フィギュアを持っている方(リ〇ちゃんやウル〇ラマンなど)は試してみてください。前へ手を出すと前へコテンと倒れてしまいます。

これを倒れないするのが予測的姿勢調節です。

 

また、反射ではないということはすごく重要なポイントで

上位中枢機構の指令によるということは後天的に学習されるということです。

 

赤ちゃんもハイハイやつかまり立ちから手を伸ばし転んでしまうことを何度も経験することで、手を伸ばしても倒れない方法を学習していきます。それが学習されると意識しなくても手を伸ばして倒れなくなります。

学習された経験をもとにプログラムを立案し、動作で生じるであろう動揺を予測し姿勢を調節すること=予測的姿勢調整となります。

 

予測的姿勢調節を発現させる中枢機構

  • 運動制御系の下行路:皮質脊髄路を中心とする背外側下行路
  • 姿勢制御系の下行路:(橋・延髄)網様体脊髄路を中心とする腹内側下行路

皮質運動野・補足運動野・大脳基底核・小脳から網様体脊髄路の起始細胞への投射が、主運動を開始するための姿勢調節を可能にさせていることを示唆している  Moriら 2004

つまり、運動制御系の下行路が活動する前に姿勢制御系の下行路が先行して働く、この姿勢制御系の下行路の活動が予測的姿勢調節の経路と考えられます。

 

予測的姿勢調節の種類

予測的姿勢調節は別名先行随伴性姿勢調節といいます。

つまり先行性(動作に先立って)と随伴性(動作に随伴して)の2つがあるということです。

 

Preparatory Anticipately Postural Ajustments(PAPAs)

  • 運動に100~150sec先行して生じる非常に速い応答
  • 持続的に姿勢調整する基礎となる
  • 橋網様体脊髄路が主に関与

動く前に準備しておくAPA’Sです。

 

Accompanying Anticipately Postural Ajustments(AAPAs)

  • 運動中に起こる予測的姿勢活動
  • 運動のプログラムと実行している運動の調整に関与する(必要な姿勢制御を増す)
  • 延髄網様体脊髄路が主に関与

運動開始時だけ準備しておいて後はほったらかしという訳にはいきません。

運動中にも常にバランスをモニターしながらバランスを調整するAPA’Sです。

 

 

予測的姿勢調節(フィードフォワード)と反応的姿勢調節(フィードバック)どっちが問題?

どちらが大事かと言えばどちらも大事なのですが。。。

 

今回は立位を例に挙げて説明します。

 

人間の発達段階から考えると、四つ足動物では支持基底面が広いので、そこまで予測的に姿勢を調節する必要がなかったことが考えられます。そこから人間は2足直立姿勢に進化し、支持基底面が狭く重心が高い不安定な姿勢となる変わりに

  • 手・上肢機能
  • 言語

を獲得することになります。

ということを考えると、予測的姿勢調節の方が人間が進化してきた背景として獲得されておくべきものと考えられます。

 

 

しかし、外乱に対して姿勢を元に戻す反応的姿勢調節がなければ倒れてしまいます。

予測的姿勢調節は後天的に学習されるものということは先程書きました。

ということは、こうすれば倒れないという情報を学習していく必要があります。

 

 

姿勢は準備して最初は良いけど、結局倒れてしまうようであれば倒れない方法を学習することはできません。しかし、予測的姿勢調節で準備ができていないと調節可能範囲を越えた動揺が生じます。それでは、バランスを保つのが精一杯となります。

バランスを保つのが精一杯であれば、立位保持で効率の良い足関節戦略は使えないということになります。

足関節戦略は安定した状況で、ゆっくりした重心移動の際に発現される 

 

 

足関節戦略でのフィードバック情報が多く返ってくれば、先程のフィードフォワード制御は安定した姿勢の情報を提供できたということを学習していきます。股関節戦略でのフィードバック情報をもとに学習した場合、いつもバランスを保つのが精一杯なプログラムを立案してしまうということになります。

予期的姿勢調整

この図のように良い状況は右のように足関節戦略、不安定な状況は股関節戦略ということが分かるかと思います。

そういった相互関係で姿勢制御は成り立っているため、予測的・反応的姿勢調節どちらも大事ということになります。

 

 

まとめると

  1. 予測的姿勢調節の効率の良い学習のためには反応的姿勢調整が必要
  2. 予測的姿勢調節がなければ、反応的姿勢調節でも足関節戦略が使えない(股関節戦略・ステッピング戦略が中心となる)
  3. 足関節戦略でのフィードバックが多く返ってくれば、より安定したプログラムということを学習し次の予測的姿勢調節に繋がる

ということです。

 

 

脳卒中のバランス障害全般についてはこちらの記事を参考に

脳卒中片麻痺のバランス障害について 11年目理学療法士が診るべきポイントを解説

2018.05.08

動作後の問題、反応的姿勢調節についてはこちら記事を参考に

反応的姿勢調節とは?脳卒中のバランス評価で重要なポイントを解説!

2018.05.14

 

座位に関してはどうなのか

座位に関しても予測的姿勢調節と反応的姿勢調節の関係性は同様です。

ただ、座位の方が支持基底面が広く安定した姿勢であるため予測的姿勢調節が必要な度合いが少ないとは考えられます。

また、座位は立位のように足関節戦略・股関節戦略・ステッピング戦略という分類はないので直接的な比較は難しいですが、現象面で説明したいと思います。

 

 

座位でのリーチを例にとると

  • 足関節戦略:リーチするに伴い体幹が伸展する。安定して上半身重心が動かせる。下方へのリーチもゆっくりコントロールできる
  • 股関節戦略:リーチに伴い体幹が屈曲・側屈・回旋する。重さのつり合いをとるようにリーチと逆方向に重心が偏移する
  • ステッピング戦略:リーチに伴い倒れる。リーチした先のテーブルなどを強く押しつけてしまいなかなか戻れない=実質支持基底面から重心は逸脱している

などが座位でのリーチパターンであてはまるかと思います。

 

予測的姿勢調節についての臨床研究

予測的姿勢調節の研究では主に

  • 足圧中心(Center of pressure:COP)
  • 筋電図

を用いて研究が行われています。

 

 

予測的姿勢調整に影響を及ぼす要因としては

  • 主運動のパフォーマンス(何をするか)
  • 運動開始時の重心位置
  • 姿勢平衡の不安定性(課題の難易度)

などが報告されています。

 

予測的姿勢調整に関しての最初の論文は

安静立位状態かとら片方の上肢をできるだけ素早く水平位前方へ挙上させた際の主動筋である上肢筋の三角筋前部の放電開始に先行して、同側の下肢筋の大腿二頭筋と対側の躯幹筋の脊柱起立筋に筋放電が出現する        Belen’kii et al 1967

 

これが予測的姿勢調整の研究の始まりであり、これ以降多数の研究者により研究が行われています。

以下に文献の研究結果の一部を紹介します。

筋電図の文献紹介

素早い上肢挙上時に三角筋の前に大腿二頭筋・脊柱起立筋の活動が先行する   Balen‘S

 

一側上肢屈曲時の同側ヒラメ筋抑制、同側大殿筋・半腱様筋の活動、反対側大腿筋膜張筋の活動が生じていた   Bouisett

 

肘関節屈曲時は反対側の脊柱起立筋は活動するが、大腿二頭筋の活動は抑制される   小宮山

 

筋電図では主に上肢の筋活動に先行して下肢や体幹の筋活動が生じることが研究されています。

 

足圧中心の文献紹介

立位での動作課題において全ての動作課題でCOPの後方変位を生じていた   Crenna

 

素早いステップ動作を実施した際、COP振幅(変位量)は増加していたが、見越し時間には変化はなかった   Ito

 

上肢挙上時に上肢を除いた身体部位が後方へ変位する。しかし。最初からCOPが後方に位置した場合のみ姿勢保持の筋活動が生じなかった   藤原

全ての動作において足圧中心が後方へ変位するというのは興味深いです。

 

運動速度の違いについての文献紹介

立位での上肢挙上時、肩屈曲スピードを遅くするとハムストリングスの潜時はばらつきを示し、動作に遅れて筋活動を生じるものもあった   Lee

 

歩行開始時において、前脛骨筋の活動増加とヒラメ筋の活動抑制が歩行スピードと正の相関がある   Crenna

 

速い運動課題においてAPAの見越し時間はステップ動作の速度に関して有意差を認めなかった   Ito

 

その他文献

APA’Sの出現には学習が関与   Lee

 

 

 

研究の知見を臨床に応用するには?

  • 体幹・下肢が安定しないと上肢は使いにくい
  • BOS内の重心移動でも特に後方へ移動できる能力が重要
  • 姿勢の不安定性や動作のスピードなど難易度を段階付けて練習する必要がある
  • 学習されるものであるため、繰り返し経験することが重要

といったことを頭に入れておくと良いと思います。

 

予測的姿勢調整が発現しない状況とは?

予測的姿勢調節も発現しない状況もあります。

予測的姿勢調節は経験し学習されていくものということを書きました。

つまり、学習されバランスが安定している動作などは不必要になることがあります。

例えば健常成人にとって立位を保持すること自体は予測的姿勢調節は必要ないでしょうし、座位の保持にも必要ないと思います。

 

 

しかし、脳卒中でバランス障害を呈している方にとっては必要となります。

つまり、課題の難易度に影響を受けると言われています。

経験したことなく、難しすぎる課題は予測できません。

初めて玉乗りや綱渡りをする人は経験値がないため予測的姿勢調節は働きません。経験し学習が進むにつれて獲得できるものです。

 

 

脳卒中の患者さんにとってはこれが立位であり、歩行であり、リーチであるということです。

 

 

これも患者さんに多い現象ですが、手すりなどを握りしめ姿勢を保持している状態。これは手すりを握り力まかせに姿勢を保持している状態です。身体で行う予測的姿勢調節の変わりに手すりでバランスを安定させている状況です。こういった状況では、予測的姿勢調節は働かないと言われています。

 

オススメ書籍

予測的姿勢調節を学ぶためには外せない1冊です。

運動学となっていますが、多関節という言葉通り、全身の反応や中枢神経系の説明について詳しく説明されています。 

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